『イシューからはじめよ〜知的生産のシンプルな本質〜』

『イシューからはじめよ〜知的生産のシンプルな本質〜』安宅和人、英治出版、201012月初版

※時間のない方はこちらの動画をご覧ください。

社内で経営課題を抱えている場合、みなさんはどうやって解決しますか?

この本は、東大卒業後マッキンゼーに入社し、その後はかのヤフーでチーフストラテジーオフィサーを務めるなど、いわゆるエリートである著者が、「圧倒的に生産性の高い人」には共通点があるということに気づき、そこから「イシュー」の重要性を説くという内容です。問題解決のプロの思考プロセスを垣間見れる一冊です。

 

内容は非常に抽象的ですので、あまり興味のない人が読むと「これが何の役に立つのだろう?」と疑問に思ってしまうかもしれません。

 

しかし、経営者レベルで言えば、何が本当の問題(または課題)なのか?(商品?売上?社員?はたまた社長自身?)なのかを特定し解決することは重要なスキルだと思います。

 

イシューとは?

まず、この本で語られる「イシュー」とは何かですが、その前に生産性について言及します。生産性はアウトプット(成果)の量をインプット(投下した労力・時間)の量で割った式で表せます(アウトプット÷インプット)。とすれば、生産性を上げるには、分子のアウトプットの量を上げれば良いことになります。

 

ところで、筆者はアウトプットのことを、「対価がもらえるような意味のある仕事」だと述べます。つまり、「意味のある仕事」をすることで生産性が上がるということです。この「意味のある仕事」のことを筆者が所属していたマッキンゼーでは「バリューのある仕事」と呼んでいたそうです。つまり、生産性を上げたければ「バリューのある仕事」をすれば良いということです。

 

そして、筆者はこの「バリューのある仕事」を「イシュー度」が高く「解の質」も高い仕事だと定義しています。

ここで筆者がいう「イシュー」とは①2つ以上の集団の間で決着のついていない問題であり、かつ②根本に関わるもしくは白黒がはっきりしていない問題を指します。

したがって、「イシュー度」とは、自分がおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さを、「解の質」とは、イシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い、を指します。

 

この本のタイトルにもある通り、筆者は「イシュー」の方こそが大切であると述べます。なぜなら、「イシュー度」が低い仕事はたとえ「解の質」が高かったとしても顧客からの価値がないからです。

 

イシューの見極め方

では、イシューをどのようにして見極めたら良いのか説明します。

 

問題解決をする際、イシューを見極めること、つまり、「何に対して答えを出す必要があるのか」という議論から始め、「そのためには何を明らかにする必要があるのか」という流れで分析していきます。

 

その際、無理矢理にでもまずは仮説を立て、ことばにすることが大事だと筆者は述べます。

なぜなら、

①そもそも具体的にスタンスをとって仮説に落とし込まないと、答えを出せるレベルのイシューにならないから

②仮説を立ててはじめて本当に必要な情報や分析がわかる

③仮説がないまま分析をはじめると、出て来た結果が十分なのかの解釈ができない

からです。

 

では、良いイシューの見つけ方のポイントです。良いイシューには3つの条件があります。

①本質的な選択肢である
→「右なのか左なのか」というその結論によって大きく意味合いが変わるものでなければイシューとは言えない。すなわち、「本質的な選択肢=カギとなる質問」なのだ(「なんちゃってイシュー」を避けることと「イシューは動く標的」ということを頭に置きたい)。

②深い仮説がある
→常識を否定しよう。つまり、一般的に信じられていることを並べて、そのなかで否定できる、あるいは異なる視点で説明できるものがないかを考える。競合が気づかない発見は大きな戦略的アドバンテージとなる。一般的に信じられている信念や前提を突き崩せないかを常に考えるようにしたい。また、その延長の話として、新しい構造で説明することも考えたい。

③答えを出せる
→イシューだと考えるテーマが「本当に既存の手法、あるいは現在着手し得るアプローチで答えをだせるかどうか」を見極めることが大事。

 

情報収集のコツ

ところで、良いイシューを見つけるためには、情報収集も大切です。この本では、イシュー特定のための情報収集で気を付けることも紹介しています。

 

イシューを発見するためにどのように情報を仕入れたら良いか?つまりイシュー特定のてがかりを得るにはどうしたらよいか。それは、取り組んでいるテーマ・対象について「考えるために材料をざっくりと得る」ことです。

つまり、時間をかけ過ぎずに大枠の情報を集め、対象の実態についての肌感覚を持つ。ここでは細かい数字よりも全体としての流れ・構造に着目することが大事です。

 

【情報収集の3つのコツ】

コツ①一次情報に触れる
→誰のフィルターもかかっていない情報に触れる。

コツ②基本情報をスキャンする
→業界の基本的な情報について数字、問題意識、フレームワーク(検討している問題が既存の「枠組みのなかでどう位置付けられ、説明されているかを理解する」を押さえる。

コツ③集めすぎない・知りすぎない
→意図的にざっくりとやる。

 

それでもイシューが見つからない場合は?

さて、以上のようなやり方をしてきたにもかかわらず、なおイシューが見つからない(または何がイシューかわからない)場合もあります。そこで、イシューを特定するアプローチ方法を5つ紹介します。

アプローチ① 変数を削る
→いくつかの要素を固定して、考えるべき変数を削り、見極めのポイントを整理する。

アプローチ② 視覚化する
→問題の構造を視覚化・図示化し、答えを出すべきポイントを整理する。

アプローチ③ 最終形からたどる
→すべての課題が解決したときを想定し、現在見えている姿からギャップを整理する。つまり、最後に何がほしいの?というところから考えることも有効。

アプローチ④ 「So What?=だから何?」という問いかけを繰り返し、仮説を深める。
→一見すると当たり前のことしかイシューとして挙がらないときは「だから何?」という質問を繰り返すことが効果的。何度も繰り返すことで仮説が具体化し検証すべきイシューが磨かれていく。

アプローチ⑤ 極端な事例を考える
→極端な事例をいくつか考えることでカギとなるイシューを探る

 

まとめ

何が新の問題(または課題)なのかということを見極めないと、解決したつもりが実は全く解決されていないかった、ということになりかねません。問題が重要であればあるほど、慎重にイシューを見極めることが大事ですね。そんな真の問題解決の思考法をご紹介しました。ご参考になれば幸いです。

 

【記事の執筆者】

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